PLRP-S® ポリマー系逆相HPLCカラムでモノクローナル抗体H鎖のトリプトファン酸化体を測定医薬品として開発されたモノクローナル抗体は、治療用途としての安全性と薬効を保証するため、その効力、純度、構造などが測定され、十分に特徴ずけられてなければいけません。モノクローナル抗体における多様性は、H鎖におけるN-結合型オリゴ糖のガラクトシル化(galactosylation)や、フコシル化(fucosylation)が不完全であったり、H鎖のC末端におけるリシンの欠損や、他の修飾が行なわれるなど、翻訳後修飾の結果によって発生します。モノクローナル抗体の純度は、サイズ排除クロマトグラフィ、イオン交換体クロマトグラフィ、疎水クロマトグラフィ、キャピラリー電気泳動など、複数の分離技術を用いて測定され、その結果などから翻訳後修飾や製品の劣化の度合いを判断します。 今回はアムジェンのグループによる、モノクローナル抗体H鎖のトリプトファン酸化体を正確に、そして再現性よく定量するために、PLRP-Sポリマー系逆相HPLCカラムを用いた分析方法を紹介します。従来はサイズ排除クロマトグラフィで、抗体の一量体、二量体、凝集体の分離などを見ておりましたが、ここではモノクローナル抗体の翻訳後修飾の分離にも検討されました。しかしその応用では十分な分解能が得られず、またカラムのロット間差で測定値がばらつくために、正確性と信頼性が損なわれていました。そこで最近幾つかの文献でも紹介されているように、ここでもモノクローナル抗体の翻訳後修飾の分離において、逆相HPLCカラムを使用したLC/MSの有用性が試されました。ここでの研究目的は、サイズ排除クロマトグラフィで見られるトリプトファン酸化物を含むピーク前ショルダーの大きさと、ポリマー系逆相HPLCカラムで定量できるトリプトファンの酸化体量の相関関係を実証することです。そしてこれが実証されると、遺伝子組み替えで製造されるモノクローナル抗体において、翻訳後修飾で生じるトリプトファンの酸化体をモニターするのに、ポリマー系逆相HPLCカラムが利用できます(出典文献1.)。 対象となるモノクローナル抗体は、IgG2サブクラスでκ-L鎖を持っています。そしてまとまった量の医薬品グレードである抗体が70mg/ml濃度で精製された後、このレポート中ではコントロール・サンプルとして使用されます。一方で精製途中の「サイズ排除クロマトグラフィで見られるトリプトファン酸化物を含むピーク前ショルダー」が豊富で、クロマトグラムにおける全ピーク面積の38%を占めるサンプルは、トリプトファンの酸化体がモニターできる、ポリマー系逆相HPLCカラムの分析方法開発に役立ちました。
PLRP-Sポリマー系逆相HPLCカラムによる、還元化モノクローナル抗体のクロマトグラフィ条件抗体サンプルを、50mMトリス塩酸、pH7.5溶液で1mg/ml濃度まで希釈します。そして200µgの抗体サンプルに、1µLのN-glycosidaseを添加し、37ºCで4〜5時間インキュベーションします。その後この抗体サンプル溶液を室温に戻し、8M塩酸グア二ジンを1:1(v/v)の比率で、抗体サンプルに添加して変性させます。500mMジチオスレイトールが入っているストック溶液を、変性させた抗体サンプルに加えて100mM濃度にし、その結果得られた抗体サンプル溶液を、37ºCで30分間インキュベーションして、ジスルフィド結合を切断して還元体を作ります。 図1.トリプトファンの酸化体を含むモノクローナル抗体(赤色)と、医薬品グレードのモノクローナル抗体(青色)の比較[糖鎖除去及び還元化した各サンプルをPLRP-Sポリマー系逆相HPLCカラムで分析] *ピーク前ショルダーの矢印(→)は、H鎖のグリカン構造に起因します。 **上記挿入図は、拡大されたH鎖部分の分離です。
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