アーリック™(ERLIC™)ミックス・クロマトグラフィ分離モードによる、 リン酸化ペプチド(phosphopeptides)の選択的分離と、固相抽出法(Solid Phase Extraction)による脱塩 |
タンパク質のリン酸化修飾は、細胞の重要な調節機構です。タンパク質のリン酸化が発生する位置とその化学量論(stoichiometry)は、その影響を査定するための手段として、十分に興味深いことです。現在はまずタンパク質をトリプシン酵素で消化し、幾つかの手法を施して、リン酸化ペプチドを特定します。このリン酸化ペプチドの選択的分離は、しばしば下記の方法でなされます。 1) 固定化金属アフィニティ・クロマトグラフィ(IMAC: Immobilized Metal Affinity Chromatography) 2) チタニア(Titania)などのルイス酸 (Lewis acid)を利用[リン酸は強ルイス塩基(Lewis base)] 3) 強陽イオン交換体(SCX: Strong Cation Exchange) ほとんどのトリプシン消化ペプチドは、pH2.7では+2の合計した電荷を持ちます。一方、リン酸化ペプチドは、pH2.7ではリン酸基が−1の電荷を持つので、合計で+1の電荷となります。よって最初に溶出してくるフラクションには、豊富なリン酸化ペプチドが含まれます。 そして4) の方法として、新しい分離モードのアーリック(ERLIC: Electrostatic Repulsion/Hydrophilic Interaction Chromatography)イオン的反発作用/親水性相互作用ミックス・クロマトグラフィがあります。これはサンプル中の対象化合物が持つ電荷と、それに反発する同一のイオン交換基を持つカラムの間で、親水性相互作用が働く分離モードです。ペプチドのアーリック・モードによる分析は、(+)のイオン交換基を持つポリワックスLP(PolyWAX LP)陰イオン交換体を用いてpH〜2.0で行ないます。ほとんどのトリプシン消化ペプチドは、低いpHでは(+)の合計した電荷を持ちますので、陰イオン交換体の持つ(+)のイオン交換基と反発して、カラムの空隙容積(void volume)の前に溶出してしまいます。一方アーリック・モードの移動相は十分な有機溶媒を含有し、その反発作用にもかかわらず、ペプチドが十分に保持される親水性相互作用を与えます。この方法で非リン酸化ペプチドはカラムに強く保持されると同時に、ここでは非リン酸化ペプチドの保持が限界になる条件等も研究しています。一つのリン酸基の修飾が、アーリック・モードにおけるイオン的反発力を弱め、親水性相互作用を促進します。これらのコンビネーションがほとんどのリン酸化ペプチドを、非リン酸化ペプチドから引き離し、単離及び分離を可能にしました。そして一ヶ所のみリン酸化されたペプチドは、アイソクラティック分離法で十分ですが、二ヶ所以上のリン酸基を持つペプチドの溶出を確実にするには、塩のグラジエント分離法が必要となります。 このように分離されたリン酸化ペプチドは、しばしば非揮発性の塩を含有しているフラクション中にあり、時にはその塩濃度も高くなります。そして質量分析装置や他のペプチド分析手法を行なう前には、リン酸化ペプチドの入ったフラクションから脱塩が必要となります。ここでは各種の固相抽出(SPE: Solid Phase Extraction)カートリッジが試されています(出典文献1.)。 出典文献1. Desalting Phosphopeptides by Solid-Phase Extraction: Andrew J. Alpert, Steven p. Gygi and Ashok K. Shukla, ASMS (American Society for Mass Spectrometry) 2007, Poster# 438 |