ミックス・ベッド イオン交換体カラム(Mixed-Bed Ion Exchange Column)
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牛乳はそれ自身が持つ栄養上の役割に加えて、免疫グロブリン(抗体)及び新生児の消化管で活性化する免疫調節タンパク質を含んでいます。しかし乳タンパク質の全範囲に関する知識は、まだ不十分です。ここではユニークな弱陽イオン交換体樹脂と弱陰イオン交換体樹脂を、1対1で混合したミックス・ベッド イオン交換体クロマトグラフィによるタンパク質分画法で、牛乳の乳漿プロテオームを行った結果、293種類のユニークな遺伝情報を持つタンパク質が確認でき、その内の176種類が乳漿中の新しいタンパク質であることが分かりました。ここでの研究はタンパク質レベルが違うにもかかわらず、仔牛の出産一日後の初乳と、出産三ヶ月後の牛乳を比較した乳漿プロテオームで、初めてその整合性を定性的に証明しました。部分定量分析は新生仔に余剰の自然防御を与える可能性がある、幾つかの初乳タンパク質において、その発現レベルが上昇していることを示しました。 ここ数年間で牛乳における乳漿タンパク質の同定数が飛躍的に増えましたが、その乳漿プロテオームの手法としては、主に一次元/二次元電気泳動が利用され、また液体クロマトグラフィとの組み合わせなども試されてきました。そして最近ではコンビナトリアル・ペプチドリガンド・ライブラリー(CPLLs: Combinatorial Peptide Ligand Libraries)を用いて、多量に発現するタンパク質を除去し、低発現のタンパク質を探索する手法も開発されました。しかしこの手法の落とし穴は、除去したい多量タンパク質が、他の微量タンパク質やペプチドのキャリアーとなっているケースもあり、除去することによって目的としていた低発現のタンパク質も、消失してしまう可能性がありました。 これらの従来法に対して、ここで開発された新しいユニークな乳漿プロテオーム手法は、まず乳漿タンパク質をミックス・ベッド イオン交換体クロマトグラフィを利用して、インタクトの状態で分画します。その後採取した各フラクションを、トリプシン酵素で消化して、そのペプチド断片をキャピラリー逆相HPLC-MS/MSで解析していきます。 このミックス・ベッド イオン交換体クロマトグラフィを用いた乳漿プロテオームでは、多量に発現するタンパク質を除去することなく、CPLLsを用いた手法のおよそ二倍の乳タンパク質が同定できました(文献1.参照)。
ポリエルシー社ミックス・ベッド イオン交換体カラム( PolyLC Mixed-Bed IEX Column)による乳牛の初乳と牛乳の比較クロマトグラフィ条件 遠心分離などの前処理をした乳漿タンパク質を、40mM塩化ナトリウムと1対1 で希釈して、10%メタノールに溶解し、ミックス・ベッド イオン交換体カラムへ負荷します。溶出はまず塩化ナトリウムのグラジエントで行い、その後過塩素酸ナトリウムのグラジエントで行います。
溶出液は2〜55分間に、12フラクションをマニュアルで採取します。 図1. ミックスベッド・イオン交換体カラムによる乳牛の初乳と牛乳の比較
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