オンライン・サイズ排除クロマトグラフィ(pHEA-SEC)カラム/質量分析装置による抗体の分子量測定

医薬品として開発された遺伝子組み換えタンパク質の分子量測定は、このタンパク質分子を構成するアミノ酸配列、そしてその翻訳後修飾を評価するタンパク質のキャラクタリゼーション分析の鍵となるものです。タンパク質医薬品の製品開発においてインタクト・タンパク質の分子量測定は、医薬品承認申請におけるタンパク質の包括的なキャラクタリゼーションをサポートし、またタンパク質全体の分子レベルにおけるロット間のばらつきをチェックできます。このインタクトもしくは還元化抗体の分子量測定によって、H鎖のC末端におけるリシンの欠損度合いや、ピログルタミン酸の形成などN末端の異質的多様性(heterogeneity)の評価、N-結合型オリゴ糖の異質的多様性プロファイルの作成、そして酸化体形成、アスパラギン酸(aspartic acid)からコハク酸イミド(succinimide)への形成、糖化形成(glycation)、内部分裂(internal cleavage)、チオエーテル (thioether)の形成など、タンパク質の不安定性を探知することができます。

今回はシアトルにあるアムジェンのグループが、極性物質の分析用として開発された親水クロマトグラフィ(HILIC: Hydrophilic Interaction Chromatography)用担体であるポリハイドロキシエチルA (PolyHYDROXYETHYL A)カラムを用いて、サイズ排除クロマトグラフィモードで使用し、エレクトロスプレー・イオン化質量分析装置(ESI-MS)に直結して、抗体の分子量測定を迅速に行なう分析方法を紹介します。この方法は酸性条件下でタンパク質の脱塩が非常に効率良く行なえるため、その後の標準的なエレクトロスプレー・イオン化で分子量測定をするのに最適です。その上この手法はタンパク質の分子量測定において、クロマトグラフィ分離の一般的なアプローチと考えられる逆相クロマトグラフィHPLC手法よりも、より迅速に行なえて高感度が得られます(出典文献1.)。

ポリハイドロキシエチルA (pHEA: PolyHYDROXYETHYL Aspartamide)-サイズ排除クロマトグラフィ(SEC: Size Exclusion Chromatography)カラムによる、インタクト及び還元化抗体のクロマトグラフィ条件

CHO細胞由来のモノクローナル抗体を、インタクトの状態では水で2mg/ml濃度まで希釈します。そして還元化するには20mM DTTが添加された6Mグアニジン塩酸/100mMトリス塩酸、pH8.0溶液で2mg/ml濃度まで希釈し、37℃で30分間インキュベーションします。どちらの抗体サンプルも、カラムへの負荷量は4µg (2µL)及び20µg (10µL)とします。

図1. 逆相(rp: reversed phase)HPLCカラム(a)とpHEA-SECカラム(b)によるインタクト抗体の分析を、UV214nm及びトータル・イオン・カレント(TIC: total ion current)クロマトグラムで比較(c)

*上記(a)の挿入図は、溶出部分の拡大図です。
**上記(b)の矢印(→)が示しているネガティブ・ピークは、約750µLのカラム全容積です。
a) サンプル: インタクト抗体(タンパク質負荷量:4µg及び20µg)
  移動相A: 0.12% TFA、100% 水
  移動相B: 0.1% TFA、10% 水/80% 2-プロパノール/10% アセト二トリル
  グラジエント: 10→90%移動相Bの20分間グラジエント
  流速: 0.3mL/min
  検出器: UV214nm
  温度: 75℃
     
b) サンプル: インタクト抗体(タンパク質負荷量:4µg及び20µg)
  pHEA-SECカラム: 202HY0503 (PolyHYDROXYETHYL A, 300Å, 5µm, 2.1mm内径 × 200mm) [文献ではカラムの長さが250mmですが、製造元のPolyLC社へ問い合わせたところ、このサイズのカラムを充填した記録が無いので、恐らく研究員が間違ってエンドフィティングの長さまで入れて計測した可能性が高い]は、0.1% ぎ酸の移動相によって流速0.2ml/minで、12〜18時間ほど通液してカラムの平衡化を行ないます。
  移動相(アイソクラチック): 0.1% ぎ酸
  流速(分析時): 0.1ml/min
  検出器: UV214nm
  温度: 室温

pHEA-SECカラムでのサンプル分離後に、ステンレスのT字管を接続して2.0% ぎ酸/ 100% アセト二トリルを、流速0.1ml/minで通液してESI-MSに送液します。

上記のデータを見ますと、十分なTIC強度を得るために、逆相HPLCカラムは20µgの抗体負荷量が必要ですが、pHEA-SECカラムは4µgの抗体負荷量で十分です。またそれぞれの信号強度を比較しますと、pHEA-SECカラムの4µgが逆相HPLCカラムの20µgに対して、45倍を超える感度がありました。

図2. 逆相HPLCカラム(c,d)とpHEA-SECカラム(a,b)のスペクトラム・データ

ここでは逆相HPLCカラムの20µg抗体負荷量と、pHEA-SECカラムの4µg抗体負荷量を比較しました。pHEA-SECカラムの方がS/Nが非常に良いのが分かります。

 

出典文献1. Molecular Mass Analysis of Antibodies by ON-Line SEC-MS, Lowell J. Brady, John Valliere-Douglass, Theresa Martinez, and Alain Balland, Journal of American Society for Mass Spectrometry 2008, 19, 502-509

 

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