リン酸化ペプチド(Phosphopeptides)の電荷による選択的分離

細胞調節機構における、タンパク質のリン酸化が発生する部位の決定は、特有の酵素/基質の相互作用を明確にするために必要です。そして細胞内シグナル伝達の重要性を理解するきっかけにもなり、最終的には多くの病気に関するメカニズムを、洞察する力となります。このタンパク質のリン酸化メカニズムを解明するために、今回は米国 Dr. Steven Gygi のグループによる、このリン酸化部位の分離と解析で、強陽イオン交換体と質量分析装置を利用した手法を紹介します(出典文献1.及び2.)。

一般的にトリプシン酵素で消化されたペプチド断片は、pH2.7では+2の電荷を持ちます。一方、リン酸化ペプチド断片は、pH2.7ではリン酸基が−1の電荷を持つので、合計で+1の電荷となります(図1.)。今回ここで紹介致しますポリスルフォエチルA(PolySULFOETHYL A)200Å孔径の強陽イオン交換体(SCX)HPLCカラムは、通常使用される300Å孔径と比較すると樹脂表面積がかなり広く、+1の電荷を持つペプチド断片を吸着するのに十分な強い保持力を持ち、また +1と+2の電荷の違いも、きれいに分離することができます。そして+1のフラクション[ペプチド断片全体の3% 未満に相当(図2.)]を質量分析装置で解析すると、そのほとんどがリン酸化ペプチドであることが判明しました。このことから、初期段階で全体の97% に相当する夾雑ペプチドが除去できた(図3.)ことは、その後の質量分析装置などによる解析処理を、大幅に簡素化できました。Dr. Gygiのグループは、この手法によりHeLa細胞の核タンパク質から、2,000以上のリン酸化ペプチドを同定しました。


図1. pH2.7におけるトリプシン消化ペプチドの電荷

 

 

図2. pH2.7でのトリプシン酵素で消化されたペプチド断片の電荷とその理論的分布図

 

 

図3. トリプシン酵素で消化されたHeLa細胞の核タンパク質の分離及び溶出

サンプル:

HeLa細胞より抽出して、トリプシン酵素で消化された300µgペプチドを、500µlの移動相Aに溶解

カラム:

PolySULFOETHYL A 200Å, 5µm, 3.0mm内径 × 200mm

移動相A:

5mMリン酸カリウム、30%アセト二トリル、pH2.7

移動相B:

移動相A + 350mM KCl

グラジエント:

1) 100% 移動相Aで、5分間のカラム平衡化
  2) 0→15% 移動相Bの15分間グラジエント
  3) 15%→100% 移動相Bの1分間グラジエント
  4) 100% 移動相Bで、15分間カラムに通液

流速:

350µl/min

検出器:

UV220nm
フラクション: 2分毎にフラクションを分画採取し、最初の4フラクションを別途分取し、脱塩後凍結乾燥

 

 

図4. 合成リン酸化ペプチド・ライブラリーの分離及び溶出

サンプル:

pH2.7で+1の電荷を持つ2,000ほどの合成リン酸化ペプチド・ライブラリー
*分析条件は、図3.と同じ

  (Data Courtesy of Steven Gygi, Harvard Medical School)

 

 

出典文献 1. .Large-scale characterization of HeLa cell nuclear phosphoproteins: Sean A. Beausoleil, Mark Jedrychowski, Daniel Schwartz, Joshua E. Elias, Judit Villen, Jiaxu Li, Martin A. Cohn, Lewis C. Cantley, and Steven P. Gygi, PNAS vol. 101 (2004) 12130-12135
出典文献 2. Phosphoproteomic Analysis of the Developing Mouse Brain: Bryan A. Ballif, Judit Villen, Sean A. Beausoleil, Daniel Schwartz, and Steven P. Gygi, Molecular & Cellular Proteomics 3.11 (2004) 1093-1101

 

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