疎 水クロマトグラフィ(PolyPROPYL A™ )によるヘテロポリマー抗体の分離精製 |
ヘ テロポリマー(HP)抗体は各種の感染症に対する新しい治療薬として開発されました。ヘテロポリマーの機能は、身体における自然生体防御メカニズムの効能 を高め、生命を脅かす病原体(バクテリア、ウイルスなど)を破壊及び除去します。このヘテロポリマーは、ユニークな二種類の抗体を化学的にクロス・リンク (cross-link)したもので、一方の抗体がヒト補体受容体CR1を認識し、もう一方の抗体が血中の病原体を直接ターゲットとします(http://www.elusys.com/heteropolymer-antibodies.html Figure 1.参照)。今回はこのヘテロポリマーを抗体医薬品として開発しているElusys Therapeutics社(米国)が、HPの製造工程において不純物として生じる未反応の抗体モノマーを除去するために、プロピル基を導入したポリプロ ピルA ( PolyPROPYL A)と Fractogel EMD Propyl (S)の疎水クロマトグラフィ樹脂を用いた分離精製法を紹介しています。他のクロマトグラフィ分離モードを考えた場合、例えばアフィニティ・クロマトグラ フィでは未反応抗体とヘテロポリマーの発生源が同じであるため、認識部分の差別化ができず難しく、イオン交換体クロマトグラフィでは、ヘテロポリマーと未 反応抗体が持っているそれぞれの合計した電荷がほとんど同じであるため、分離が複雑となり非常に難しくなります。そしてゲルろ過クロマトグラフィでは、 600,000ダルトンを超えるタンパク質の、大量分取用クロマトグラフィ樹脂が存在しません。これらのクロマトグラフィ分離モードに対して疎水クロマト グラフィでは、疎水性アミノ酸残基をもつタンパク質が、高塩濃度条件下で増幅された疎水的相互作用によって、樹脂担体に固定化した緩やかな疎水性リガンド に吸着します。次に塩濃度を下げながら疎水的相互作用を減少させ、各タンパク質がもつ疎水性の弱い順番で、樹脂担体から脱離させることによって、それぞれ のタンパク質を分離することができます。このことから疎水クロマトグラフィは、モノクローナル抗体とその抗体の凝集物質が持つ唯一の差異である、疎水性の 違いを利用した分離に最適です。また同じ疎水性の違いを利用した分離モードである、逆相クロマトグラフィで使用する高濃度の有機溶媒は必要としないので、 タンパク質の活性が失われる心配がなく、抗体などタンパク質の分取精製には最適です。そしてプロピル基以外のリガンドをもった樹脂も検討しましたが、十分 な分離が得られませんでした。ここでは弊社が取り扱うポリプロピルAカラムの、ステップワイズ溶出によるクロマトグラフィ条件を紹介いたしますが、グラジ エント溶出ですと溶出ピークがテーリングなく、よりシャープになるかと思われます(出典文献1.)。 ポリプロピルA( PolyPROPYL A)疎水クロマトグラフィ(Hydrophobic Interaction Chromatography)カラムによるヘテロポリマーのクロマトグラフィ条件 ヘテロポリマーの反応液を10mMリン酸ナトリウム、2M硫酸アンモニウム、4%アセトニトリル、pH6.5のバッファー で、硫酸アンモニウム濃度が0.9Mになるまで希釈し、続いてこの希釈済みの反応液20µlを、ポリプロピルAカラムへ負荷します。 図1. A) ポリプロピルA疎水クロマトグラフィによるヘテロポリマーの分離精製
出 典文献1. Purification of Antibody Heteropolymers using Hydrophobic Interaction Chromatography, Irina Kostareva, Finn Hung, and Colin Campbell, Journal of Chromatography A, 1177(2008)254-264 |