親水クロマトグラフィ(HILIC: PolyHYDROXYETHYL A™)を利用したLC/MSによる アミノグリコシド系抗生物質の検出

従来アミノグリコシド系抗生物質(aminoglycoside antibiotics)を液体クロマトグラフィで分析する際には、対象サンプルがUV吸収をもたないので、まず誘導化する必要がありました。この点を解決するため、質量分析装置(MS)を利用した LC/MS による分析方法が検討されてきましたが、通常アミノグリコシド系抗生物質の分析において使用される不揮発性の溶媒が、質量分析装置に不向きなため改善が必要でした。そしてアミノグリコシド系抗生物質をLC/MSで解析する際に、揮発性のフッ素化カルボキシル酸をイオンペア試薬として添加した報告がありましたが、このイオンペア試薬はMSの検出感度を抑制してしまい、十分な感度が得られないこともあります。

今回ここで紹介しますアイルランドの Dr. O'Keeffe のグループは、アミノグリコシド系抗生物質をLC/MSで解析する際に、親水クロマトグラフィ[Hydrophilic Interaction Chromatography(HILIC)]を使用することによって、イオンペア試薬を添加する必要がなくなりました。HILICは順相クロマトグラフィの一種で、使用するグラジエントは移動相中の有機溶媒濃度を、高い濃度から低い濃度に落としてきます。そして極性の低いサンプルから高いサンプルと順次溶出してきます。通常の抗生物質など極性低分子物ですと、ポリハイドロキシエチルA(PolyHYDROXYETHYL A)カラムとの間に生じる親水性インターラクションがポリペプチドやタンパク質などより弱いので、保持を強くするために、構造上より樹脂の表面積が広い、孔径の小さな100Åカラムを使用しますが、アミノグリコシド系抗生物質は例外でした。今回は特別に表面積の小さい1000Åカラムを使用しまして、吸着したゲンタマイシン(gentamicin)、ネオマイシン(neomycin)、カナマイシン(kanamycin)などの、アミノグリコシド系抗生物質を溶出しました(出典文献1.)。他にも新薬探索における天然物由来の極性物質分析で、HILIC/ESI-MSを使用した報告もあります(出典文献2.)。

図1. アミノグリコシド系抗生物質の質量分析データ



サンプル:
アミノグリコシド系抗生物質(50μl)
カラム: 204HY0510 (PolyHYDROXYETHYL A 1000Å, 5μm, 4.6mm内径 × 200mm)
移動相 A: 80% アセトニトリル/20% 250mM 酢酸アンモニウム、pH4
移動相 B:
25% アセトニトリル/75% 250mM 酢酸アンモニウム、pH4
グラジエント:
1) 0→100%移動相Bの5分間グラジエント
2) 100%移動相Bで、カラムに10分間通液
3) 100→0%移動相Bの3分間逆グラジエント
流速: 1.0ml/min
検出器: APCI質量分析装置



出典文献1. A Novel MS Compatible Method for The Analysis of Aminoglycoside Antibiotics by LC-MS at Residue Levels, M. McGrane. H.J.Keukens, M.O'Keeffe, J.A. Rhijin and M. R. Smyth, Residues of Veterinary Drugs in Food, Euroresidue IV(May 2000), page 765(van Ginkel & Ruiter, eds.), Bilthoven, The Netherlands 発表用ポスター

出典文献2. Hydrophilic Interaction Chromatography-Electrospray Mass Spectrometry Analysis of Polar Compounds for Natural Product Drug Discovery, Mark A. Strege, Analytical Chemistry, Vol. 70, No. 13, July 1(1998) 2439-2445

 

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