ヒト血清タンパク質のLC/LC/MS/MSによる網羅的プロテオーム解析


ヒト血清に含有されるタンパク質は、最大約10,000種類くらいとなり、血清中に全体量として、約60〜80mg/ml濃度で存在します。主なタンパク質は、アルブミン、免疫グロブリン、トランスフェリン、ハプトグロビン、リポタンパク質などが、大量(>mg/ml)に存在しますが、その他のペプチド・ホルモン、サイトカインなどは、微量(<ng/ml)にしか存在しません。そして、これらの微量タンパク質の分離解析を試みる際、大量に存在するタンパク質の影響が大き過ぎて、分離解析を非常に困難なものにしています。 この複雑なヒト血清サンプルを分析する際の前処理は、従来ですと二次元電気泳動が利用されていました。今回ここで紹介いたします、米国 Dr. Richard D. Smith のグループが開発した二次元クロマトグラフィは、ただ単に二次元電気泳動に取って代わるというだけでなく、ヒト血清中から網羅的に分離解析できたタンパク質が490種類と、従来報告されていた種類の3〜5倍に増やすことができました(出典文献1.)。

ここではまずヒト血清サンプルから、抗体精製用のプロテインA/G固定化樹脂で、免疫グロブリンを除去し、残ったアルブミン等を含む全タンパク質を、トリプシン酵素で消化します。そして強陽イオン交換体クロマトグラフィ(SCX)カラムのポリスルフォエチルA(PolySULFOETHYL A) HPLCカラム(9.4mm内径 × 200mm)で、まず120 フラクションの粗分画分取をします。その際、カラムへのサンプル負荷量が過大ですと、微量にしか存在しないタンパク質の酵素消化されたペプチド断片が、二つ以上の複数フラクションにまたがって分取されてしまいます。そして、個々のフラクションをLC/MS/MS(逆相クロマトグラフィHPLCカラム/質量分析装置)解析する際、微量タンパク質の検出に有用なペプチド断片数、及びそれらのアミノ酸配列を解析するのに必要な質量スペクトラムを得るための、最低限サンプル量(>15fmol)の確保が難しくなってきます。このため、一次元クロマトグラフィのSCXカラムでは、高分離能(よりシャープなピーク形状)が要求されるので、サンプル負荷量はカラムの通常負荷量の1/4から1/5となります(例1.0mm内径:250µg、2.1mm内径:1mg、4.6mm内径:4mg、9.4mm内径:16〜20mg)。

強陽イオン交換体 ポリスルフォエチルA(PolySULFOETHYL A) HPLC カラムによる一次元クロマトグラフィの条件

500µlのヒト血清サンプルから、免疫グロブリンだけを除去したヒト血清タンパク質は、トリプシン酵素で消化され、ペプチド断片の状態で凍結乾燥されています。このサンプルを2mlの下記移動相Aで溶解し、不溶性物質を遠心分離器で除去後、一次元クロマトグラフィ分離を、下記の条件で行います。

カラム: 209SE0503(PolySULFOETHYL A 300Å, 5µm, 9.4mm内径 × 200mm)
移動相A: 75% 10mMぎ酸アンモニウム/25%アセトニトリルを10mMぎ酸でpH3.0に調整
移動相B: 75% 200mMぎ酸アンモニウム/25%アセトニトリル、pH8.0
グラジエント:

1) 100%移動相Aで、5分間のカラム平衡化
2) 0→100%移動相Bの30分間グラジエント
3) 100%移動相Bで、25分間のカラム洗浄

流速: 4ml/min
検出器: UV280nm
フラクション: 30秒毎に、120フラクションを採取

ここで採取した各フラクションは、再度凍結乾燥され、次の LC/MS/MS 解析では、50µlの逆相HPLCカラム用 移動相A(100%水、0.1%ぎ酸)に再度溶解して、解析されていきます。

今回紹介した、LC/LC/MS/MSによる網羅的プロテオーム解析方法ですと、ヒト血清タンパク質中に存在する、補体ファクターH(血中濃度 約35µg/ml)、アンギオテンシノゲン(血中濃度2.5〜0.15ng/ml)、PSA(健常女性血中濃度 <1.0pg/ml) なども検出することができました。

*下記文献のコピーをご希望の方は、弊社にご連絡下さい。

出典文献1. Toward a Human Blood Serum Proteome: Analysis by Multidimensional Separation Coupled with Mass Spectrometry, Joshua N. Adkins, Susan M. Varnum, Kenneth J. Auberry, Ronald J. Moore, Nicolas H. Angell, Richard D. Smith, David L. Springer, and Joel G. Pounds, Molecular and Cellular Proteomics, November(2002)

 

 

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