プロテオーム解析では、サンプルの前処理方法として、二次元電気泳動の利用が一般的です。米国Dr. John Yatesのグループは、この煩雑なオフラインで行われる二次元電気泳動の代わりに、総てオンラインで行えて、直接MS/MSに注入出来るDALPC(Direct Analysis of Large Protein Complexes)法(図1.)として、二次元クロマトグラフィを開発しました(出典文献1.)。ここでは強陽イオン交換体クロマトグラフィ(SCX)樹脂のポリスルフォエチルA(PolySULFOETHYL A)と、逆相分配クロマトグラフィ(RPC)樹脂のバイダック(Vydac)C18を充填したHPLCカラムを直列でつないでいます。図2.のMS/MSのデータは、目的サンプル全体をトリプシン酵素で消化して出来た、全ペプチド断片を解析した例です。ここではまず全ペプチド断片を、ポリスルフォエチルAに吸着させ、塩濃度をステップワイズで上げて溶出してきた個々のフラクションを、直列でつないであるバイダックC18にダイレクトで吸着させます。そしてこのバイダックC18からのペプチド断片の溶出に有機溶媒濃度のグラジェントをかけるのですが、これも直列でつないである最初のポリスルフォエチルAから通液していきます。その際ポリスルフォエチルA自身が、疎水性の非特異的吸着を一切持たず、純粋にイオン的吸着でペプチドを保持していますので、有機溶媒濃度の変化によるペプチドの漏れはありません。最後にここでMS/MSによって解析されたペプチド断片の情報を、質量分析装置メーカーのソフトウェアーに入力しますと、目的サンプルの全容を知ることが出来ます。現在このDALPC法では、一回につき1,500〜2,000個のペプチドが確認出来ます。
現在Dr. John Yatesは、University of WashingtonからScripps Research Instituteへ移り、彼の研究室にいた研究員達が全米各地の研究所に散らばって、このDALPC法を駆使して、プロテオーム解析を行なっています。その際、上記の1mm内径のPolySULFOETHYL A(型番:151SE0503)の代わりに、安価でカラム間のデッドボリュームが無い2mm内径 x 10mm(型番:J22GCSE0503)の槍型ナローボア・ガードカラム(写真1.)を使用したりしています。また膜タンパク質などの疎水性の強いサンプルには、SCX-RPC二次元クロマトグラフィの代わりに、親水クロマトグラフィ(HILIC: Hydrophilic Chromatography)樹脂のポリハイドロキシエチルA(PolyHYDROXYETHYL A)を用いたSCX-HILICも検討されたりしています。 ところで、最近のDr. John Yatesはこの出典文献1.で使用していた、酢酸/塩化カリウム/アセトニトリルを組み合わせた移動相の代わりに、HFBA(へプタフルオロ酪酸)/酢酸アンモニウム/アセトニトリルの組み合わせを使用しております。この中の酢酸アンモニウムは、揮発性の塩なので直接MS/MSに注入しても、感度の低下はありません。
写真1. ポリスルフォエチルA槍型ナローボア・ガードカラム及びバイダック ナローボア・カラム
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