クロマチンを構成するタンパク質群であるヒストンはH1、H2A、H2B、H3、H4の主だった五種類があります。そのうちH2A、H2B、H3、H4の四種類はコア・ヒストンと呼ばれ、これらのコア・ヒストンが二分子づつで構成するヒストン八量体を146bpのDNAで1.75回巻きしたヌクレオソームが、クロマチンの基本的単位です。そしてヌクレオソーム間のDNAに結合するリンカー・ヒストンであるH1にはH1.2、H1.3、H1.4、H1.5といったサブタイプが存在し、そのうちH1.5 のリン酸化部位に関して、今回はオーストリアDr.Herbert Lindnerのグループが詳細に検討しています(出典文献1.)。ここではリン酸化されたヒストンの分離において、その修飾リン酸基数の違いを、弱陽イオン交換体カラムポリキャットA(PolyCAT A)の陽イオン交換体/親水クロマトグラフィ(HILIC)ミックス・モードによって、非常に良く分離する事ができました。 転写開始を誘導する一つのファクターであるヒストン修飾の種類は多岐にわたり、アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化などあげられます。そしてこれらの修飾は一つの修飾が他の修飾を誘導促進し、連続的に起こって細胞分裂を誘導、あるいは抑制しています。今回紹介する論文では間期、M期にある、ヒトリンパ芽球性T細胞(CCRF-CEM)から単離したH1ヒストンを、逆相クロマトグラフィ(RP)と親水クロマトグラフィ(HILIC)で分画採取し、酵素消化、さらにはアミノ酸シークエンシング、質量分析装置で解析しています。 間期においては、4つのH1サブタイプがこれらの細胞内に存在し、それぞれリン酸化されるサイト数が異なってきます。 ヒストンH1.5は3ヶ所、H1.4は2ヶ所、H1.3とH1.2は1ヶ所のみリン酸化されます。このリン酸化は特定部位で行なわれ、SP(K/A)Kモチーフのセリン(Ser)残基がリン酸化を受けます。M期にある細胞から得られたH1.5のリン酸化部位は、間期に比べてさらにリン酸化を受けており、それはC末端のTPKKモチーフ上のトレオニン(Thr)残基がリン酸化ターゲットになっています。H1.5はC末端にTPKKモチーフを2ヶ所(Thr137とThr154)持っていますが、そのうちのどちらかがリン酸化を受けてテトラ・リン酸化タンパク質となります。さらにH1.5は、N末端にあるノンコンセンサスなモチーフのThr10がリン酸化を受け、ペンタ・リン酸化タンパク質になります。この論文で示すデータはヒトH1のバリアントのリン酸化が、非ランダム的に間期とM期の両時期に起こり、別個のセリン特異的あるいはトレオニン特異的なキナーゼが、異なるセルサイクル・フェーズに存在することを示唆しています。 筆者らは特にH1.5の10位のトレオニン残基のリン酸化に着目し、一つの仮説(可能性)を立てています。それは様々な癌細胞で過剰発現して、H3の10位のセリン残基をリン酸化するAurora B kinaseは、悪性腫瘍にしばしば見られるクロモソームの不安定化に関与しているといわれていますが、そうするとこのM期におけるH1.5のN末端側のリン酸化も腫瘍形成に関わっているのかもしれない・・・という仮説です。 これに関しては今後の研究(キナーゼの探索やリン酸化される意味)が期待されます。 図1. 細胞分裂間期におけるリン酸化H1.5ヒストンの分離(HILICクロマトグラフィ・モードの分離能をCEと比較)
図2. HILICクロマトグラフィ・モードによるColcemid処理した細胞から過剰リン酸化H1.5ヒストンの分離
|