抗体医薬品は主に癌や免疫疾患の治療薬として、有益な効果を出しています。感染症の
ような複雑な実体をもつ疾患においては、抗原特異性のあるモノクローナル抗体より、ポリクローナル抗体が効果的であることが知られています。CHO細胞による抗体生産から、完全ヒト抗体作成技術を持つシンフォジェン社(Symphogen
A/S)は、安定的なモノクローナル抗体発現の細胞ラインを確立し、ポリクローナル・マスター細胞バンク(pMCB: polyclonal
master cell bank)として保存し、これを抗体医薬品の製造に用いています。ここでは突発性血小板減少症[Primary
ITP(Immune Thrombocytopenia)]の治療に用いられるRozrolimupab(25種類のモノクローナル抗体のセットで構成)について紹介しています。特に製造工程の一貫性と再現性を、陽イオン交換体クロマトグラフィ(CIEX:
Cation Exchange Chromatography)で徹底的に評価しています。CIEXは抗体のもつ総電荷の差で分離できるので、バッチごとにポリクローナル性を確認することで、製造工程や品質管理に役立てることができます(出典文献1.)。
ここではCIEXに、ポリキャットA(PolyCAT
A)カラムを使用しています。
カラム:弱陽イオン交換体PolyCAT A 1500Å 3µm, 4.6mm内径 × 100mm
(カタログ番号104CT0315)
移動相A:150mM塩化ナトリウム含有25mM 酢酸ナトリウム、pH5.0
移動相B:275mM塩化ナトリウム含有25mM 酢酸ナトリウム、pH5.0
グラジエント:0→100% 移動相Bの110分間グラジエント
流速:1mL/min
検出器:UV215nm
温度:室温
図1. CIEXによるRozrolimupabポリクローナル抗体のプロファイル 図A: 製造工程の上流工程において、400L培養タンク(製造番号:
MYS05-01)での培養開始から3日、7日、11日、15日の経過後、それぞれ採取したサンプルをCIEXで分析した25種類のモノクローナル抗体含有比率の比較
図B: GMP製造工程として400L培養で製造した精製ポリクローナル抗体の異なる各バッチ(製造番号: MYS05-01、MYS05-02、MYS05-03、MYS05-04)を、CIEXで分析したクロマトグラムの重ね書き
図C: 製造番号MYS05-01の下流工程における、各段階[MabSelect SuReプロテインA樹脂による吸着/溶出後のゲルろ過処理液、DEAE陰イオン交換体クロマトグラフィ溶出液、ウイルス不活性化処理及びウイルス削減ろ過液(VRF:
Virus Reduction Filtration)、疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(MEP HyperCel)溶出液でpH及び導電率調整後、限外ろ過/透析ろ過液(UF/DF:
ultrafiltration/diafiltration)、精製ポリクローナル抗体]でのサンプルを、CIEXで分析したクロマトグラムの重ね書き
図2. 実験室の5L培養槽を利用して、400L培養と12,500L培養をシミュレーションした際に、産出されたそれぞれのポリクローナル抗体を、CIEXで分析したクロマトグラムの重ね書き
図3. CIEXによる個々のモノクローナル抗体と、これらモノクローナル抗体をポリクローナル抗体であるRozrolimupabの実質的標準品に加えたプロファイル
図A: RhD240モノクローナル抗体のポリクローナル抗体標準品への添加 図B: RhD157モノクローナル抗体のポリクローナル抗体標準品への添加
図C: 典型的なCIEXによるRozrolimupab分析例で、このポリクローナル抗体を構成している25種類のモノクローナル抗体が割り当てられたピーク[図Aと図Bでの緑色はそれぞれの単独モノクローナル抗体、紫色はポリクローナル抗体標準品にそれぞれの単独モノクローナル抗体を添加、青色はポリクローナル抗体標準品、そして矢印はそれぞれRhD240モノクローナル抗体(図A)とRhD157モノクローナル抗体(図B)を表示]
出典文献1. Consistent Manufacturing and Quality Control of
a Highly Complex Recombinant Polyclonal Antibody Product for Human
Therapeutic Use, Torben P. Frandsen, Henrik Naested, Soren K. Rasmussen, Peter Hauptig,
Finn C. Wiberg, Lone Kjaer Rasmussen, Anne Marie Valentin Jensen,
Pia Persson, Margareta Wiken, Anders Engstrom, Yun Jiang, Susan J.
Thorpe, Cecilia Forberg, and Anne B. Tolstrup, Biotechnology & Bioengineering,
Vol.108, No.9, (Sept. 2011) 2171-2181
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