医療用モノクローナル抗体(mAbs)及びその誘導体は、癌、自己免疫疾患、代謝疾患、感染症など、広範囲な人類の病気治療に重要な薬です。モノクローナル抗体が持つ独創的な薬理学上の長所(例:標的特異性、選択性、長い半減期、優れた安全性)と、進化するタンパク質工学 [例:二重特異性抗体、フュージョンタンパク質、抗体-薬物複合体(ADC)、ナノ抗体] は、継続して新しい抗体医薬品の開発を推進するために、何百もの候補対象物が臨床中です。しかしその複雑な立体構造、構造動力学、高分子量のサイズ、各種の翻訳後修飾による微小不均一性から、モノクローナル抗体及びその誘導体は、過去に製造されたことがないほどに非常に複雑な生物製剤で、包括的なキャラクタリゼーションのために、また製剤品質を保証するために、非常に大きな分析的チャレンジが要求されます。
液体クロマトグラフィ(LC)と質量分析装置(MS)は、医療用モノクローナル抗体のキャラクタリゼーションにおいて強力な解析ツールです。LCの分離モードとしては、逆相クロマトグラフィ(RPC)、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)、疎水クロマトグラフィ(HIC)、アフィニティ・クロマトグラフィなどがあり、製剤中の異成分と不純物の含有を評価するのに使用します。トップダウン、ミドルダウン、ボトムアップ、ネイティブMSは、一次配列を決定するのに用いられる手法です。そしてオンラインLC-MSとして用いることで、ワークフローを簡略化し、オフラインでの作業を削除できます。
ここで紹介する筆者らの一部は、2016年頃より初めてのオンラインHIC-MSによるトップダウン・プロテオミクスを紹介してきました。重要なことはHICがタンパク質を変性することなく、天然の構造のままモノクローナル抗体を分離、解析できる唯一の手法であるという点です。従ってオンラインHIC-MSは、タンデムMS(MS/MS)手法を採用して、モノクローナル抗体の相対的な疎水性、不均一性の査定、アミノ酸配列や構造情報の取得が可能となります。ここで特筆すべきことは、初めてインタクト・モノクローナル抗体を四重極飛行時間型(Q-TOF)質量分析装置と、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析装置を利用して解析し、モノクローナル抗体の疎水性や糖鎖のバリエーションを明らかにしました。また二量体、三量体といった非共有結合の多量体が、解離せずに保持されて検出できます。更にオンラインHIC-MSと電子捕獲解離反応装置(ECD)を利用して、モノクローナル抗体のアミノ酸配列、構造的キャラクタリゼーションに関して、特にジスルフィド結合以外の相補性決定領域(CDR: Complementarity-Determining Region)を証明しました(出典文献1.)。
カラム: | 100.20PE0210(PolyPENTYL A, 1000Å, 2µm, 200µm内径 × 100mm) |
サンプル: | モノクローナル抗体の混合物(mAb1、mAb2) |
移動相A: | 1M酢酸アンモニウム |
移動相B: | 50% ACN含有20mM酢酸アンモニウム |
グラジエント: | 1→99% 移動相Bの35分間グラジエント |
流速: | 2.6µL/min |
検出器: | maXis II Q-TOF質量分析装置 |
出典文献1. | Online Hydrophobic Interaction Chromatography-Mass Spectrometry for the Analysis of Intact Monoclonal Antibodies, Bifan Chen, Ziqing Lin, Andrew J. Alpert, Cexiong Fu, Qunying Zhang, Wayne A. Pritts, and Ying Ge, Analytical Chemistry 2018, 90,7135-7138 |